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清風掃々第19号 平成24年3月発行

講話
 ゼロから一へ

 最初の一歩は、とても難しいことです。ユダヤの格言に「ゼロから一への距離は、一から千までの距離より大きい」というのがあります。ゼロから一はわずかなように見えますが、何もしないところから一歩踏み出すのは大変な勇気が要ることを言っています。一方、踏み出してしまうと後は進むのが非常に早いです。何もないところからでも、良いと思ったことは勇気を持って一歩を踏み出していただきたい。一歩踏み出したら、今度はそれを続けるエネルギーを絶えず自分の中に見出していく。そうしますと、百に至り、五百に至り、千に至る。
 ある本の中で名優市川團十郎がそのことを書いていました。ある停留場に行ったとき、大きな貨物が荷物をいっぱいに積んで止まっているのを大勢で押していた。動き出した後は一人で押していた。それを見ていた團十郎が弟子に「ほらあれを見ろ、最初やるときはたくさんの力が要るんだ、しかし動き出せばあんな重いものだって一人で動かせるんじゃないか」と教えたとありました。このように最初に物事を踏み出すのは勇気も要るし、エネルギーもいるし、もしもこれをやって失敗したらどうしようとつい思いますね。そう思うと躊躇してしまって、良いと思いながらもやらないで終わってしまうことがよくあります。
 さて、ここからがとても大切なところです。確かに何もしない人は失敗しない、しかし、何もしないという失敗ほど大きな失敗はないのです。私は人生で何も失敗しなかった、だから私は良かったという人がいますが、それは何もしなかったという証明なんですね。何かをすれば必ず自分の未熟さ、あるいは自分が下手であること、力のなさ、あらゆることを思い知らされ、人からも非難されるし、いろんな目に遭い、こんなことをしなきゃよかったと後悔するんですね。しかし、何かをやって失敗した後悔は、必ず後になるにつれ小さくなり、いつの間にか消えてなくなります。ところが、何もせずに後になって、あの時どうしてやらなかったのか?やっておけばよかったという後悔は、いつまでも自分を苦しめて長引くものなんですね。何かをやれば失敗もある、人から非難される、嘲笑される、そのことが自分を鍛えていく元だと思います。