カリスマ性を身につけるには
「どうすれば創業者のようなカリスマ性を身につけられますか」
会社の後継者の方から、こんな質問をよく受けます。社長を受け継いだけれど、なかなか思い通りにいかない。社員を上手に動かせる、リーダーとしての魅力を培うには、何をすればいいかということです。しかし、カリスマ性なんていうものは、つくろうとしてできるものではありません。できるだけ早く、簡単に身につけたいと思っているのであれば、その考え方自体を改めたほうがいいでしょう。
千年を超えるような歴史のある神社には、とてつもなく存在感のある大木があるものです。ただ、大きいとか、どっしりしているというのではなく、神々しさを備えています。それは地中の水分や養分だけで育ったものではありません。目に見えない、神域のすべてを吸収しながら、長い時間をかけて、ああなっているのです。
人間も、同じです。「この人は信頼できる」「ついていきたい」と思われるような人間的魅力は、一朝一夕に身につきません。それを一気に得ようとするから、無理がでて、周囲に期待ばかりをするようになり、ますますうまくいかなくなるのです。詰め込んだ知識や技能で見つくろうとしても、必ず見抜かれます。
では、どうすればいいか。急いで成果を出そうとするのでなく、誰もが見過ごし、やらないような、遠くて、小さくて、弱い問題から根気よく取り組むことです。よく社内を観察して、手間のかかる面倒な事柄を黙って引き受け、それをコツコツと積み上げる。現場の社員ほど、上の立場の人間の行動をよく見ています。「大変だなあ」と同情されるくらいの姿を示すことが大切です。そうすれば、求めるものは自然と備わってきます。
弱者にやさしい会社を
これから経営を担う方には「会社を測る物差し」をしっかりと自分の中にもっていただきたいと思っています。会社である以上、売上げと利益を伸ばすことは大切です。しかし、そのために社員を酷使し、取引先に嘘をつき、世間から顰蹙を買うような会社が「いい会社」と言えるでしょうか。
経営をするならば、ぜひ「社員が誇りを持てるような会社」をめざしていただきたいと思います。会社の規模の大小や利益の多少と、誇りが持てるかどうかは関係がありません。
誇りが持てない会社には共通点があります。それは「強者に弱く、弱者に強い」ことです。大手の納入先やお客様にはへりくだるけれども、仕入先や出入りの業者など立場の弱い人には威張り散らす。そんな会社で働く社員の心は、必ず荒み、社風が悪くなっていきます。
私は現役時代、「よき社風」をつくることを経営で最も大切にしてきました。
イエローハットの本社では、お客様から引き取った古いタイヤが毎週、三百本以上は集まります。それを毎週月曜日の朝に、専門の業者の方がトラックで回収にきてくださるのですが、到着する前には、タイヤを倉庫から出して並べておき、さらに社員十人ほどで待って、一緒に荷台へ積み上げるようにしていました。また、近くにコーヒーやお茶などを入れた温冷蔵庫を置いておき、自由に持ち帰っていただけるようにしていました。
こうしたことがきちんと、当たり前にできる会社に、社員は誇りを感じるはずです。
郵便を配達してくれる人、出前をもってくる人、商品を届けにくる人、運送会社の運転手さん。そういう人に分け隔てなく接し、喜ばせる努力ができる社員を一人でも増やしていくこと。その努力を積み重ねていけば、黙っていても社員はついてくるようになるでしょう。
鍵山秀三郎