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清風掃々第5号より 平成13年1月発行
北京技科大学の講演より「凡事徹底」

 

鍵山会長(当時会長)

皆さんこんにちは。
学生さんが掃除に学ぶ会に取り組む姿勢にはびっくりしました。
些細なことでも今日のように真剣に取り組んでいただきたいと思います。

ひとは自分だけが特別になりたいと思っています。
だから、何か特別なことをしなければならないと思っています。
でも、世の中には特別なことはひとつもありません。
今日の掃除のように平凡なことばかりです。
この平凡なものに真剣に取り組むことで、平凡ではなくなってくるんですね。
ここに書いてある「凡事徹底」という言葉は、やさしく言うと平凡なことを非凡に努力するという意味です。
私はこの平凡なことの中から、特に掃除をとりあげて、今日まで何十年間も続けてきたわけです。

掃除をするとたくさん良いことがあります。
たくさんある素晴らしいことの中から、特に二つ今日は掃除をやることによって良くなる効用をお話します。
それは、人間はだれでも最初の頃は、雑な心を持っているものですが、きめ細やかな心に変わってきます。
きめ細やかな気持ちになっていくと小さな幸せに敏感になって、大きな不幸に鈍感になっていくんですね。
人間はこの小さなことに喜べる人が、幸せになっていけるんです。
災難や不幸なことに鈍感になるということは、それに耐えられるということですね。
ですから、小さなことに喜んで、自分に対しての困難や災難に対して強くなる、
それがどんどん人生をよくしていきます。
きめ細かい心を持っている人は、対人関係もよくなりますし、その結果自分も幸せになっていくわけです。
荒れた心や雑な心が優しくなっていくと、自分が優しくなれますし、優しくなるにしたがって、人間は忍耐心がどんどん育っていくようにできています。
荒れた心の人は忍耐心がなくて、なんでもすぐに怒りやすいですね。
みなさん一人一人が穏やかな心を持って、忍耐心が育っていくと社会の秩序が保たれます。
やがてはそれが中国という国家そのものを良くしていくことになります。

今私は六十七歳です。
五十年前の日本と比べると今の日本はとても豊かになりました。
人間は豊かにさえなれば幸せになると思って、豊かさを求めてきましたが、残念ながら豊かになっても幸せにはなれませんでした。

私が子供の頃はご飯さえ腹いっぱい食べられませんでした。
ですから、ご飯をお腹いっぱい食べたいとか、着物がたくさんほしいとか、豊かになれば幸せになれると思って努力をしてきました。
しかし、豊かさだけでは幸せにはなれませんでした。
本当に幸せになるためには、美しい社会、そして人への思いやり、秩序のある社会の中に住んだ時に、初めて人間は幸せになれるんです。

秩序のある社会を創るためには、一人一人が高い倫理観、あるいは高い道徳心を持たなければ秩序のある社会はできないんです。
この高い道徳心や倫理観を身に付けるためには、良い習慣をたくさん持つことです。

例えばどこでもつばを吐くとか、ごみを捨てるとか、そういう習慣があった人はそういうことをやめる。
逆にそういうことをやめるだけではなしに、人の捨てたごみでも拾うとか、そういう良い習慣をひとつひとつ身に付けるたびに、人間の道徳心は高くなっていきます。
逆に言えば、良い習慣を持っていない人は高い道徳心を持っていないことになります。
日本も交通道徳はよくありませんが、中国も感心できる状態ではありませんね。
例えば、急いでいてもちょっと待ってあげるとか、先に車を通してあげるとか、そういう習慣が身に付いてくると人間は道徳心が高くなっていくわけです。

さっきお話したことですが、倫理観や道徳心は言葉や文章だけでは教えることはできないですね。
どうしたら、教えることができるかと言ったら、倫理や道徳を説く人が、自分の生き方、毎日の生き方でもって人に示していくことが大事ですね。
みなさん方はやがて国家のリーダーとなっていくために勉強しているわけですから、自分自身が良い習慣をたくさん身に付けて、そして本当の意味でこの国のリーダーになれるようにしていただきたいと思います。
そのためには、毎日の生活を通して人の模範となるような生き方をしていただきたいと思います。
人のリーダーとなるためには、いろいろな知識や技術を身に付けることも大事ですが、それと同じくらい大事なのは良い習慣を持った、人の模範になれるような人間になれるような人間になることが、合わせて大事だと思います。
これで予定していたお話を終わります。
後は、皆様からのご質問にお答えしたいと思います。

 

学生さんからの質問

○生徒さん
いま日本を美しくする会の規則はありますか。
また、毎月の活動とか、どんなところを掃除をするかなど教えてください。

○鍵山会長
規則とかは何も無いんですね。
地域によって毎月やっている所とか、あるいは毎週やっている所とか、年に一回やる所とかそれぞれの場所の事情でやっています。
主にやるのは学校ですが、時にはJRや公園の場合もあります。
この会は七年前に三十五人の人達で始めました。
そして、そこに集まった人達がそれぞれの地域に持ち帰って、各地で始めました。

○生徒さん
中国の倫理観はまだまだですが、日本でもたぶんこの美しくする会が日本でも理解されていない人がいると思いますが、どうやってこの人達を理解するようにするんですか。

○鍵山会長
日本でもまだほとんどの人が理解していないですね。
理解してくださっている人は、ほんの僅かです。
ごみを捨てる人の方が圧倒的に多いです。
だから私達は捨てる人が少なくなるように、拾う人が多くなるように頑張っています。
残念なことに日本も道路はごみだらけです。
とても手本になれるような状態ではありません。
しかし、やがては手本になれるような国になるために私達は頑張っています。

○生徒さん
中国と日本の倫理観が同じレベルだとしたら、発展途中の国である中国が日本に学べることがありますか。

○鍵山会長
残念ながらあまり無いです。
全体的に言えば、日本人はわりあいに几帳面です。
そういう性格があるんですが、そういったところは多少手本になるかもしれません。
今日の掃除を見ていただいてもお分かりだと思いますが、隅々までやっていたと思います。
そこら辺は手本にしていただけるかもしれません。

○生徒さん
北京の大学に学生の組織で「赤十字会」という会があります。
世界の赤十字の意義と同じように、自由と平等と博愛があって、よくボランティアをしています。
日本の大学では、このような組織とか、どんな活動をしていますか。

○鍵山会長
私は、大学に行っていませんから大学の実情は分かりませんが、それぞれ小さな運動としてですね、小さなグループでボランティアをされているということはあります。
しかし、大学をあげてやるとか、それがどんどん大きな運動に育っていくという例は今は無いですね。

会場の中で、「ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる」というTシャツを着た方がおられましたね。
どちらにいらっしゃいますか。
これは九州で講演した時にある人が私に質問したんですね。
「ごみ拾いや掃除をしたって、捨てる人がたくさんいるから、いくら拾っても意味が無いのでは」という質問でした。
その時に答えた言葉が、この「ひとつ拾えば、ひとつだけきれいになる」でした。
どんなに捨てる人がいても、ひとつだけでもごみを拾えば、その分だけはきれいになるということです。
今日も朝、みなさんが集まっていただいた広場で、タバコが落ちていましたので拾いました。
数はほんの三十か四十だと思いますが、たったそれだけ拾っただけでも、あの広場の雰囲気がだいぶ変わるんですね。
ですから、小さなことをおろそかにしないで大事にして欲しいと思います。

○生徒さん 
日本人は几帳面なところは良いところと思いますが、いつも小さいところに目を向けるのは、ストレスもたまるんではないですか。
几帳面すぎて小さいところだけ見て、大きなことが見えないということになるのではないですか。

○鍵山会長
ストレスというのは、雑然とした中にいるからストレスがたまるんです。
整然とした中にいますと、人間はストレスはたまりません。
例えば神社などでは爽やかな気持ちになります。
きれいにすることで、ストレスがたまることはありません。

中国では普通の家庭で、靴を脱ぐ習慣がありますか。

○生徒さん
あります。

○鍵山会長
日本は必ず靴を脱ぎます。
脱ぎっぱなしにする人がたくさんいます。
この靴を次に履きやすいように、そろえるとそれだけで、気持ちが穏やかになります。
いまのストレスの話になりますが、気持ちの雑な人ほどストレスがたまるんですね。
だから小さなことでも、すぐに腹を立てたりします。
心の中が逆に整然としてきちんと整頓されていると、少々のことでは腹が立ちません。
ストレスというのは我慢ができるかできないかです。

○生徒さん
私は凡事徹底という意義は賛成なんですが、ただ、やり方に問題があると思います。
几帳面すぎて緊張していますから、方法を変えて楽しくやればよいのではないですか。

○鍵山会長
几帳面というのは、だんだんと育てていくものなんですね。
ある日突然に出来ることではありません。
少しずつ良い習慣を身に付けていくと几帳面につながっていくんですね。
そうやって積み上げていくと、ひとつも苦痛ではありません。

例えば、自動車の運転でも習った頃は、緊張して大変疲れます。
慣れてくると、よそ見していても運転できるようになります。
積み重ねが大切なんです。

ようするに一気にいこうと思うと大変ですが、少しずつだととても大きなことでも出来るようになるんです。
人がとても出来ないような大きなことが出来るようになるんです。

例えば、サーカスがありますね。高いところでいろいろやるサーカスです。
人が見ると大変なことですが、これは小さな練習の積み重ねです。
良い習慣を少しずつ積み重ねていって下さい。

○生徒さん
さっきの広場にはたくさんの自転車がとまっているんですけど、もし、一台、二台くらい倒れていたら、私も起こせます。
でももし、台風などでたくさん倒れていたとしたら、先生はどうされますか。

○鍵山会長
私も、五台や十台くらいならやりますが、何百台ならできません。
私の会社のすぐそばに駅があって、自転車が乱雑に置いてあって、五十台ぐらい、そのくらいならやります。

○生徒さん
中国の古いことわざです。
「たとえば、昔の人が、自分の部屋がとても汚い。友達が来て、自分の部屋を掃除しなければ、偉くなりませんよ。と言ったんですが、その人は、私はえらい(すごい)ことだけするから、こんな小さなことは気にしない」ということわざがあります。
今でも中国人の中で討論しあっているんですけど、先生だったらどちらに賛成されますか。

○鍵山会長
その偉い人というのは、いろいろ意味があるんですね。
ただ、有名になったり、財産をたくさんつくった人が偉いとは思わないですね。
たくさん財産を持って、立派な車に乗って、そして車の窓からごみを捨てたり、唾を吐いたりするような人は、私は偉くないと思います。
それよりも、きちんと良い習慣を持った人の方が私は評価しています。
日本でも、小さなことはおろそかにして、大きなことばかり望んできて失敗した人はたくさんいます。

ざるで水をすくうといくらもすくえないですね。
小さな努力をする人のことを「ざるで水をすくう」と言います。
無駄なことということですね。
それでもこうやってざるで水をすくうと、何滴か落ちてきて少しはたまります。
反対にたくさん汲めるからといってバケツで汲んだ水をざるに入れると全くたまりません。
小さなことをおろそかにして、大きなことばかり望む人はバケツで汲んだ水をざるにそそぐような人です。

○生徒さん
日本を美しくする会は七年だそうですね。
他の人からどんな目で見られていますか。
賛成ですか。反対ですか。

○鍵山会長
まだ、本当に感心して賛成の目で見てくれる人は少ないです。
ほとんどの人が、何をやっているんだと皮肉な目で見る人の方が多いですね。
理解してくれる人はほんの僅かです。

○生徒さん
そんなときはどう対応するんですか。

○鍵山会長
人がどういう目で見ようと正しいことをしているのだから、気にしません。
いつか分かってくれると信じています。
それが本当の勇気です。

○大学講師
大学の先生をしています。
日本人の友達が日本からここに掃除をするために来ることはとても感動しています。
掃除の目的が二つあると聞きました。
ひとつは自分の心をきれいにする。
もうひとつはこの活動を広げるためですが、どちらがより効果が大きいですか。

○鍵山会長
掃除をすれば、自分の心もきれいになります。
さらに人の心も穏やかにできます。
それが掃除の一番大きな効果です。

今この運動が育ってきているのは、中国以外にはブラジルもあります。
ブラジルは五年もずっと続いています。
今年、私は行きませんでしたが。一五○○人もの人が参加したそうです。
日本からも数十名参加します。

○生徒さん
今の活動を日本の政府がどう見ていますか。

○鍵山会長
残念ながら日本政府の人は、自分のことしか見ていません。
でも。メンバーの中に数名の国会議員の人がいます。

○生徒さん
日本の政府は中国の留学生を十万人ぐらい受け入れる話がありました。
掃除に学ぶ会と何か関係ありますか。

○鍵山会長
まったく関係ありませんが、政府が中国の人をたくさん受け入れようといていることは間違いありません。
これはお世辞ではありませんが、中国の学生さんはすばらしいです。(拍手)